第七議会

画面をみっちり文字で埋める系オタクの感情のたまり場

1STの各盤共通10曲を聴いて

 

youtu.be

 

なんかやべえもん聴いた。

 SixTONESのファースト・アルバムを聴き終わった感想はもうこれに尽きる。聴いている最中何度も「そう来たか!」と膝を叩いたし、その表現力のふり幅にこうべを垂れ、あふれ出る""""帝国の王""""感に跪き、上質な絹糸がごときなめらかな旋律に心打たれた。目まぐるしく変わる声の表情それはさながら万華鏡、どんなジャンルも変幻自在に歌いこなし自分たち色に染め上げる。なにかとてつもなく得体のしれない、それでいて魅力的で抗いがたい光をはなつ人たちだと思う。そういう人の作る音楽は往々にして魂のかけらだけで出来ている。とにかく、涙が出るほど誠実で、笑っちゃうぐらいに最強で、どれが彼らの本当の顔かなんて皆目見当つかないのにどのトラックを再生しても必ずあの6人に会えるのである。なんつーチートだ。こんなん反則技もいいところである。

 さてそんな珠玉の一枚、ジャンルの壁もアイドルへの偏見もまとめて全部ぶっこわす最終兵器初手から切り札SixTONESによる「1ST」の各形態共通収録曲を聴いた感想を恐れ多くもド新規オタクがつらつら書いていこうと思います。がしかし当方幼少よりピアノとクラリネットと声楽を習っていたはいいものの実践ばかりで全く座学を履修しなかったタイプの人間なので俗に言われるオンガクテキキョウヨウなるものをかけらも持ち合わせちゃございません。そこのところはどうかご承知おきいただきたいと思います。

 

 

youtu.be

 (ていうかふつうにご本人による解説聴きゃいい話じゃん)(これがタダで聴けるの最早違法だと思う)

 

www.sixtones.jp

(そういやご本人たちによるセルフライナーノーツもあったな)(このコンテンツの充実ぶりよ)(いつ課税を促されても二つ返事で頷いちゃうわこんなん)

 

 

1.ST 

 

youtu.be

 「SixTONES最“叫”キラーチューン」と銘打ち、ミュージック・ビデオも制作された本アルバムのリード曲。個人的にメチャクチャ好きです、どう足掻いても名曲だと思う。いや全曲そうなんだけど。なんだか音のひとつひとつ、言葉のひとつひとつに熱が宿っている気がするのだ。歌詞の言葉はすごく強くて、あまりに強くて、置いていかれそうなほど乱暴なまでに強いけれども、その底に諦観や挫折や辛酸や、そういうものがひろくながく横たわっていて、己と言う存在のあまりにちっぽけで弱いことに打ちひしがれて、みずからを取り巻く世界のあまりに大きいことを目の当たりにして、果てしない地平のうえの自分の弱さ、そういったものを突き付けられて、何度も絶望して膝を折りそうになって、それでも光を諦められなくて、地に這いつくばりながら泥の中を進みながら傷だらけになりながらそれでもこうしてここまで来た、そういう眼光だけの意思のようなものがほとばしっている。とてももろくてひとつ間違えれば何もかもが瓦解してしまいかねない弱さを抱えた強さを含有した曲だと思う。そしてそういう曲を歌えることが彼らのあまりに真摯なところというか。普通こういう曲って薄っぺらく聞こえるように思う。なぜならば先述の通りあまりに言葉が強いので。強い言葉とは非常にわかりやすいものだけれど、ゆえにその真価をどこまでも見透かしやすいものでもある。でも彼らはこの曲を背負って立てる。この曲に宿った刹那の熱にその身を焼かれず、この曲の言葉を自らの言葉として、この曲の熱を自らの熱として、この曲の強さを自らの強さとして歌うことができる。それはとても特異なことである気がする。己の弱さを突き付けられてなお、この世界の広さに絶望してなお、それでも強さを希求し、それでも強さを渇望し、たとえ今自分がどんなに弱くとも懸命に果敢に強く在らんともがき足掻き叫ぶさま、それが、あまりに彼らの生きざまと重なる。というか彼らそのものだと思う。なんていとしくてどうしようもないいきものだろうか。この曲を聴くといつも目の前に彼らのゆびさきが見えるような気がする。喉を枯らすように喉が千切れるほどにがむしゃらにひたすらに叫ぶ彼らの、その傷だらけのゆびさきが、ひたすらに光をつかもうと伸ばされた傷だらけのゆびさきが見える。そのなんとうつくしいことか。時代の荒波のそのなかで、うつくしく強く在らんとする彼らにのみ許された一瞬の、そのあまりにも鮮烈で儚い輝き、そればかりでできているような曲だと思う。刹那の熱。そう、刹那の熱だ、祈りだ選手宣誓だ、宣戦布告だ、決意表明だ。過去の偉大なる先輩方が作って来た栄光の道をあえて行かず、茨道を行く彼ら。その痛みすら楽しもうとする彼らである。この先の長い長い旅の中できっとたくさんの壁にぶつかることだろう、迂回すら許されないときがきっと必ずあるだろう、そのときに彼ら自身をも救ってくれるであろう、いつまでも冷めない刹那の熱がこの曲には宿っている。

 

 

2.NAVIGATOR  

 

youtu.be

 待望のセカンド・シングルとして2020年7月22日にリリースされた楽曲。ノイタミナ枠アニメ「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」のオープニング・テーマに使用されていた。個人的にあのアニメはマジで続編を望んでいる。顔の良い男が周囲を容赦なく配慮なくブン回していく様は何次元であろうといつでもオタクの大好物である(いちいち主語がデカい)。

 この楽曲については以前メンバーの田中樹が「自分自身のどの瞬間にもマッチしない異物として楽しんでほしい*1」と言っていたけれどまさにその通りだと思う。これはアルバムを聴き進めればわかることなんだけれどもマリー・アントワネットのドレスもかくやと思うほどの特大ボリュームを誇るこのアルバムのこのラインナップ、にすら溶け込まず異色を放ち続けるこの曲の「異質」さはもはや異常である。ストリングスの持つ重厚感と半音下降音階の妙を組み合わせたイントロによって演出される不穏は言うまでもなく極上。ボーカルラインが始まったと同時にサイレンが如く打ち鳴らされるティンパニがその不穏を引き継ぎ、明るさを微塵も感じさせないままサビへと突入するこの曲のつくりは聴くたびに見事だと思う。全く一筋縄ではいかない楽曲。ていうか序盤で作り上げた不穏の色を全く薄めずに最終盤まで走り抜けるの、どういうからくり?不穏と疾走感ってこんなにも心地よく共存可能だっただろうか?これがセカンド・シングルってのがもはや恐ろしい。完成度がエグい。あとこれは本当にラップが良い味だしてると思う。個人的に京本さんの「The ray of hope will be flaming(希望の光はじき燃え上がるだろう)」に田中が「Oh,flaming(そうさ、燃え上がっている)」って呼応するところがここだけで白米3杯はいけるほどに好き。

 そして例に漏れず歌詞が良い。本当に歌詞が良い。この一見ひねくれた、その実ひどくまっすぐで切実な歌詞が良い。「疑えるか 見慣れたNAVIGATOR」の一節が嫌いなオタクなんているんだろうか。「夜を駆けるか 夜明けに賭けるか」の一節にかつての中二心をくすぐられないオタクなんているんだろうか。「闇行かねば 道は拓けぬか」の一節に泣きたくなるほどの青さをおぼえないオタクなんているんだろうか。いないだろ(過言)(しかし断言)。京本さんが以前、the pillowsの『ストレンジ カメレオン』をして「この歌詞は自分で書きたかったと嫉妬するぐらい大好きな言葉がたくさん詰まっている」とおっしゃっていたが、わたしに言わせればNAVIGATORの歌詞はわたしが書きたかったぐらいわたしの好きな言葉のみで構成されてるよ。全世界のオタク、今すぐ「SixTONES NAVIGATOR 歌詞」でググってくれ。絶対に好きな言葉を発掘できるはずだ。

 それから終わり方が見事である。曲が終わるからと言ってこの曲の主人公の不穏に満ちた旅が終わるわけでなし(というかむしろこれから始まると言ってもよい)、すべての音符が磁石に吸い寄せられるがごとき逆再生で以て終わる。最後の最後まで不穏と疾走感の相互扶助がお見事である。この曲、とてつもないレベルの芸術品だと思う。この世界を疑い世界をあざ笑い世界に促し世界を駆ける主人公が未踏を進んで一体どこにたどり着くのか全く予測できないしわからないんだけれども、そのわからなさ掴めなさ不安定さにこそどうしようもなく惹きつけられるという点においてこの上もなく「SixTONESらしい」一曲。

 

 

3.Special Order 

 イントロが「SixTONESオールナイトニッポン サタデースペシャル」で公開された時、あれは深夜だったが脳細胞のひとつひとつがさながらミニオンによる大合唱のように「好き!好き!」とけたたましく騒ぎ出して眠れなくなった。魔曲である。こんなん人類全員もれなくブチ上がること請け合いのドウアガイタッテ・名曲である。ていうかたしかに「SixTONESの真骨頂でもあるワイルドに魅せるダンスチューン」と銘打たれてたのは知ってるけどもさ、ンだどもさ、ここまでイカれてるとは思わないじゃん(歓喜)(褒めてる)ていうか真骨頂ってこういうことかよ。この世に存在するどんな強い概念だってこの人たちの前じゃカタ無しさ。ことごとくすべてをなぎ倒し「俺たちSixTONESだけどなんか文句ある?」って不敵に笑うやつじゃん。右から左まで力づくで制覇して制圧するやつじゃん。ナポレオンだって傅くわ。あとこれが映画になったとき(映画になったとき???)ぜったいにキャッチコピーに「この男たち、SixTONESにつき。」って出るやつじゃん。最高じゃん。

 というかサウンドの組み合わせ方がどこまでも拍手ものなのよね。サビの電子音連打からは想像もつかないこのオリエンタルなイントロ!こういうのを攻撃的な和洋折衷っていうんだろうか。あとあまりにボーカルの配置が優れている。冒頭の髙地さん、考え得る限りのさわやかさと人懐っこさを排除して不敵さと不気味さと読めなさばかりで声を構成しているので、禁じられた洞穴の向こうの怪しげな遊びに招き入れる縄師感マシマシで困ってしまう。この人がこういうふうに歌うときは絶対に""""優勝""""であると相場が決まっている。この人は存在もそうだが特に声に不思議な力があって、絶対怪しいし危ないしついていっちゃいけないけれどもどうしようもなく惹きつけられてしまう魅力を持っている。その声をこんなふうに活用するってことは限りなくこれは名曲なのさ…次いで森本慎太郎氏の適度に少年性を残した、ゆえに危なっかしさと悪ガキ感の倍増した声がつなぎ、もはや挑発的にも思えるジェシーがシメる。完璧である。しかも慎太郎氏の何が良いって、この綱渡りみたいな状況を明らかにたのしんでおもしろがってる感じがバチバチするところである。こいつぁいけねえぜ。なんでこんなにこの人たち不穏と退廃と空虚な熱狂が似合うんだろうか。かみさまみたいにやさしくておおきくてすべてを包み込むジェシーが「Haters, come on!」って叫ぶのもあまりに良い。あとサビが音サビなのも最高である。根がPerfumeとテクノ・ポップのオタクなので、「ここまで来たら中田ヤスタカまであと一跳びじゃん…」となってグフグフ笑ってた。絶対に中田ヤスタカSixTONESに楽曲提供してほしい。とりあえず彼が外部のアーティストに提供した最高で最強な3曲置いときます。おすすめは圧倒的「ぴこぴこ東京」。明らかなる名曲。

 

 

youtu.be

 

youtu.be

 

youtu.be

 

 話がそれた。この曲は最終盤に向けて勢いよくこれ以上ない盛り上がりを見せるタイプの曲である。どんどん殺意と挑発と闘志の含有量を増大させがなり声に近くなっていく田中樹のラップ、それに高らかに呼応する京本さんの高貴なる高音!SixTONESの治安悪い曲が治安の悪さ一辺倒にならないのは圧倒的京本さんの功績だと思う。加速していく曲の白熱度とは裏腹な、繰り返される「La…」における冷めた松村北斗氏の低音が良い。頭を空っぽにして騒ぎつつ、その実頭の片隅で現在の狂騒を冷静に観察してる人物がいる感覚を味わえる。メンバーそれぞればらばらの声質がいることをここまで有効活用した楽曲が未だかつてあっただろうか?とりあえず、この曲がわたしの「満員電車の中で闘気を高めるために聴く曲リスト」第1位に躍り出たことを報告しておく。

 

 

4.NEW ERA 

 

youtu.be

 サード・シングルとして2020年11月11日にリリースされた楽曲。「犬夜叉」続編「半妖の夜叉姫」前期オープニング・テーマに使用された。ちなみにわたしは犬夜叉を履修していないオタクにあるまじき咎人なのだが、強火犬夜叉クラスタである友人(続編制作が発表された時「殺生丸様ァァァ!!!!!!」と金切り声をあげていた)に「犬夜叉履修してから夜叉姫観たほうが良い?」と聞いたところ「なんで犬夜叉見てないひとが夜叉姫観るの?ってお気持ちはあるけどそういうオタクがどんなふうに""狂って""いくのか観察したいから履修せず観て」と言われました。実験用モルモットの気分ってあんな感じなんだなって思った。

 イヤこの曲が誰も文句をつけられぬほどの名曲であることなんざ去年の時点で十分すぎるほどに承知してたつもりなんだけれども、Special Orderからの流れで聴いたときのなんだこのあふれ出る鮮烈な輝き。個人的にこれはNAVIGATORのアンサーソングだと思ってる。勝手に。ともあれセカンド・シングルで「未踏を進め」と言い放ったグループが3枚目に出す曲として、約束の場所への到達を高らかに歌ったこの曲以上にふさわしい曲はなかったと思う。これまでのジャニーズあるいはアニソンの王道のど真ん中を爆速で駆け抜けつつ、絶対にとっかかりやフックをつくって「なんか違う」と思わせるこの手腕の鮮やかなこと。6万回くらい言われてますがSixTONESって個々の声ももちろん良いんだけど何より合わさったときのユニゾンが異常なほどに良くて、その良さがチート級に生かされているのがこの曲のイントロであるよ…

 個人的にこの曲にはものすごい思い入れがあって。このNEW ERAがシングルとしてリリースされた2020年、すでに使い古された言い回しだけれど本当にたくさんのことが変わった。何の根拠も疑問もなくこの先もずっと続くと思っていた何にも壊すことのできない堅固なものだと思っていた「当たり前」が笑っちゃうくらい呆気なく瓦解して、それはわたしのような一般人の当たり前もそうだし、彼らアイドルのようなエンターテインメントを生業とする方々にとっての当たり前も、きっとそうだと思うのだ。これまでずっと、本当に多くの人たちにとって、我を忘れ時を忘れ生活に転がる些細な棘の存在を忘れスポットライトの喧噪とライブの高揚のみに身をゆだねて声を枯らして初対面かどうかなんて関係なくその場にいる人間一人残らずとこの感情この興奮を共有するための場所、そういう存在がライブだったはずなのだ。それが今ではどうだろう、客同士ソーシャルディスタンスを保ち、声を出すのもシンガロングするのもだめ。あるいは無観客。あるいは配信。それもそれで良いものではあるし、その中における最上の表現というものを模索する方向でエンタメは動き始めたけどもさ。それでも、時期とチケットさえ準備できればいつでもそこにあったはずの喧噪も高揚も、いまは画面超しのもので、何一つとして易く手に入らない。そういう衝撃の変化が2020年あったと思う。そもそもエンタメそれじたいが「不要不急」のレッテルのもと切り捨てられたのだから、エンターテイナーたちは存在そのものを否定されたような気になったんじゃないだろうか。*2

 そんな時代に、彼らは高らかに新時代の到来を宣言し、「約束の場所」への伝導を買って出た。「Alright,Welcome to NEW ERA」と言って、新しい世界へ手招きした。それはあまりに救いだったと思う。どこまでも真摯なエンタメのすがただと思う。だからわたしは本当にこの曲が好きだ。諸行無常の時代において、しなやかに風になびく臙脂の如く、この世に屹立する確かな証だ。

 

 

 

5.Curtain Call 

 前曲の満ち溢れる生命力をかけらほども感じさせないラヴソングである。トレーラーが解禁された時に、サビの「心の隙間吹き抜ける潮風」の慎太郎氏、「これでいいんだと何度も呟いた」の田中樹に心臓を握りつぶされて絶命してしまったのだが、フルで聴いたら京本さんの圧倒的技巧による「随分昔に終わってた But Why」に全てを持っていかれてしまいもうなんもわからなくなってしまった。そもそも音数を極端に絞ったさびしいイントロからしてその漂う静謐な哀愁があまりに上質なのである。海辺を一人歩きながらやぶれた恋の残り香を思い出す人間の表現がどうしてこんなにも上手い。魂の半分引きちぎられたような状態で見上げる夜明けの太陽のあまりに残酷なあたたかみをこんなにも音からダイレクトに感ぜられることってあるだろうか。もう決別したと思ってたのに、今でも気が付けば揺れる波間や砂浜の音や頬を撫でる潮風のなかにあのひとの後ろ姿を探してしまってなぜだかこみあげてくる涙のことをあかねに染まりつつあるただ広いこの空のみが知っている、どこまでもひとりぼっちの、孤独で透き通った世界がここにある。切なくてうつくしくて涙が出ちゃうね。松村氏が仰る通り「失恋ておセンチなもの」*3だけれど、それをここまできらめく儚いものとして加工できる彼らの手腕よ。というかそう言ってた松村氏による1番出だし、か細い高音がどこまでも空気に溶けていくようなさみしい冷たさを含んでいて、この人のこのパートによってこの曲の雰囲気が決定されたようなふしさえある。

 あと2番の歌割が全体的にどこまでも練られていてお見事である。自他ともに認めるグループ随一のモテ男田中樹(たぶんこの男はモテるっていうより「自分は相手に依存しないまま相手を自分に依存させる」ことがメチャクチャ上手いんだと思う。その上地頭が賢いのでつくづく敵に回したくないしアイドルやっててくれてよかった。*4何の話?)に「悲しみと引き換えに」って歌わせたの誰だ??モテる男に恋の後悔歌わせたら死人が出るっていうのは義務教育で習うと思うんだけれど…何がいいってここでも言うけどどこまでも声がマッチしてるところである。田中樹、わたしはあの人の声は本当に天性のものだと思ってて、厚かましくも田中樹がかみさまからもらった最上の贈り物はあの声だと思っている。ケヴィンとのインタビューにおいて「得意な楽器は?」って聞かれて「喉」って答えたときはさすがにあんまりにもパブリック・イメージの彼で膝を叩いて叫んだもんだが、その宣言に全く恥じない働き。すごい。あのかすれた甘い声で絞り出すように切なく「悲しみと引き換えに」って歌ったらもう世界が田中樹のためのステージと化すわ。逆にこんな人間を相手はよく振れたなと思う。で、しかもこの曲は歌詞が良くて(何度言うんだそれ)「すれ違い離れてった二つの生き方」のせいでこの二人は別れることになるんだな。どっちが悪かったとか相手が悪かったとかそういうわけじゃなくて、生き方の違いで別れたんだ。相手の生き方を否定せず、相手の生き方を肯定してそれを守るために二人でいることを諦めたんだ。これは別れだけれど許容の歌だと思う、相手の生き方を尊重したからこそ、かつ自分の生き方も尊重したからこそ、彼らは半身引きちぎられる思いを味わうことを選んだんだ。それって単純な「君のために生きる」とかいう言葉よりもよほど献身的で、泣けるほど相手に寄り添ってると思う。

 

 

6.Dance All Night 

 Special Orderと同じ日に同じラジオで解禁された時、個人的に最も沸いた曲がこれである。というか1音目から実家のような安心感。根がPerfumeのオタクなので、こういう音を体に刷り込みながら生きてきた。まず一番最初の壊れたロボットみたいな「Let’s stay up all night」を慎太郎氏に割り振ったところから話を始めたいんだが、つくづく慎太郎氏の持つ少年特有の艶やかさというか、節回しと言うか、まったく良い意味で世間知らずの悪ガキが遊んでるみたいな声、本当にこの空虚な熱狂ばかりで出来ている曲に合っている。それからイントロでたまらんのは割とざらざらした音触の田中樹の声と呼応するのが透き通ったハミングというところ。ここの対比はまさしくグループアイドルのみに許された特権である。そこからなめらかなジェシーのボーカルへとつながっていく構成はつくづく見事としか言いようがない。

 というかこの曲の持つ「ぜんまい仕掛けの世界の中で生を感じるために故障するか否かのギリギリを味わいつつ踊りあかすけれどもどうしたって心のどこかは絶対に満たされないし何かがずっと足りない」っていう感じ、ゆえの「空虚な熱狂」、あまりに退廃的で裏路地的でどこかかなしい。泣いてることにも気づかずに笑いながら音に身をくねらせて踊っている感じ。もしもこの曲のミュージック・ビデオをつくるのなら、クラブに溢れる色とりどりの光の中でひとつのおおきないきもののようにうごめきまわる人の群れ、その中でひときわ音に体を揺らして踊り狂う6人を撮ってほしい。

そしてこれは本当にサウンドが素晴らしい。間奏にある、金属の立てるような重低音が飽和した電子音の中で際立つアクセントとなっている。しかもこの重い電子音に重なるのが先述のような透き通ったハミングなのだから、音の組み合わせ方がハッピーセット並みである。そこから畳みかけるような田中樹のラップ。このあまりになめらかな2番への繋がりは、音楽を途切れさせて浮世の物事を思い出させてなるものかという執念のようなものを感じる。それから「We're gonna drive you crazy」を慎太郎氏の少年性が歌い上げているのも良い。「わたしたちはこれからあなたを夢中にさせる」だけれども、この場合は直訳の「わたしたちはこれからあなたを狂わせる」のほうが似合いそう。何度も言ってるけれども慎太郎氏のもつ“少年”特有の要素、ゆえのあまやかさや歌いかたや艶やかさや雰囲気や何よりもその「悪ガキ感」、SixTONESの(主に治安悪めな曲とちょっとおかしな恋愛の歌において)非常に重要な立ち位置にあると思うし、そういう特性をもつ彼の声が参加することによってより一層危ない浮遊感が増して曲の持つ浮世離れのイメージが輝きを放つ。ゆえにわたしはたまに慎ちゃん…おとなになんてならないで…(正確にいえば慎太郎氏は少年と青年のはざまを浮遊するガゆえの色香のようなものを持たれているのでそれをずっと保ち続けてほしいという願望)とむせび泣くときがあるんだけれどもちかごろの彼を見るかぎりたぶんそれはむりできっとすぐ彼はおとなになってしまうので、とりあえず今の慎太郎氏を鼻から吸っとくことに従事したいと思う。たぶん10年後には慎ちゃん可愛いなんて言えなくて慎ちゃん麗しいって言ってることでしょう。慎太郎氏はじき京本・松村と並ぶSixTONESの麗人枠になるんだ…そうなった慎太郎氏の参加するDance All Nightが見てみたいなと強く強く思うので、長く歌いつづけてほしい1曲である。

この曲、ブリッジが終わった後1度イントロに戻るところがこの上もなくたまらんのである。まずそのあまりのセンスに脱帽したし、この夜が終わらないこと、この夜は何度も何度もループして、決して人々は眠らずずっと歌い踊りつづけるという狂ったかなしい宴の要素がこの構成によって底上げされるからである。

本当にこの曲のもつ空虚さといったらどうだろう。たとえるなら中原中也の「都会の夏の夜」である。

 

  “月に空はメダルのやうに、

  街角に建物はオルガンのやうに、

  遊び疲れた男どち唱ひながらに帰つてゆく。

  ————イカムネ・カラアが曲がつてゐる————

  その唇は胠ききつて

  その心は何か悲しい。

  頭が暗い土塊になつて、

  ただもうラアラア唱つてゆくのだ。———“*5

 

 

 

7.S.I.X 

 メンバーがタイトルを決め、かなり手を入れてデモからはずいぶん様変わりしたという1曲。個人的に前曲のDance All Nightと地続きの曲で、なぜならばあの空虚な熱狂が健在だからである。なんだろう、前曲の舞台であるクラブにSixTONESが乱入して沸かせてる感じ。ていうかアイドルってフロア煽るんだ。

 まずイントロからしてわかりやすくザ・SixTONESなのである。ジェシーと田中樹による加工をかけた応酬、ジェシーの「Alright, let’s get it」からの1番開始である。突入へと至るマフィアのやり取りかと思うほどのこの治安の悪さ、あるいはダーク・ブラック感。どの曲でも思うんだがこういう沸かせる曲においては本当に、聴いてる人間一人残らず命がけで音に浸るよう仕向ける能力じみたものを全員保持してるのが絶対的な彼らの強みだよなあと実感する。個人的にこれは全くアウェイな場所でブチかましてほしい曲である。周りにあまり味方がいない中で「待たせたな/飛ばすぜ一晩中」とか言って不敵に笑ってほしい。

 1番にてジェシーが「やりたい放題」「明日の事なんて今は気にしない」と言い捨てるのが良い。今目の前で手に入る快感とグルーヴ、それだけがすべてと言い放つのが良い。どこまでも刹那しか生きられないんだから今この一瞬に暴れまわってやりたいこと全部やらなくてどうする、というある種投げやりな姿勢が良い。それをジェシーが見せるのが良い。

それから2番入りの京本さんの高貴さが何と言ったって良い。先述もしたけれど、ともすればただ治安悪いだけでそこそこつまらなくなってしまいがちなこういうタイプの曲における京本さんの存在は本当に大きい。もともと彼の存在はどの曲においても欠かせないけれどもこういう治安一辺倒になりがちな曲(そして治安の悪さの演出は極論誰でもできるので、それ一辺倒になってしまったらそれは「誰でも歌える曲」になってしまう)を彼らにしか歌えない曲に仕立て上げ、彼らにしか醸し出せない雰囲気をまとわせるのは彼の声にしかできない仕事だと思う。彼の気高い声が参加することでまるでマフィアに一人貴族がまじっているかのような錯覚を思わせる。そうでなくてもほかの5人と全く違った毛並みの彼の声は、より曲に深みを持たせ、あるいはまったく違った面を引き出すのである。SixTONESの曲はいつでもすごく上品で下品だが、この上品さの演出は多分彼の手によるものがいちばん大きい。とにかくわたしは治安悪い曲であればあるほど京本さんの表現が楽しみで仕方がないのである。SixTONESのメインボーカル、どちらも文句なしに歌がうまいんだけれど、ジェシーは曲によって声音や歌い方や雰囲気を変えるタイプ、京本さんは良い意味で自分という芯をたしかに残しつつ歌い方を変えるタイプだと思う。だからどんな曲を聴いても彼の高貴さは健在なのだ。それが本当に良い味出しているのである。高いキーが出るとか全くそれだけではないのである。彼のこの揺らぐことのない高貴さ、これこそが彼の声の持つ強みであるとわたしは思う。

 その高貴かつ退廃的な京本さんのあとを引き継ぐのが治安の悪さ代表田中樹なのが本当によく考えられていると思う。ロボットじみたラップの仕方なのが良い。ここの京本さんの流れるような高音からの田中樹の切り刻むラップの対比があまりに好きで、これを聴けただけでこのアルバムのもとがとれたと思った。

 それからこれはブリッジが本当に良い。「光浴びてFlex /想像を超えるスペック」の松村北斗氏の艶めかしさ本当にどうかしている。声が濡れていて女性的な色香が多量に塗りたくられていていっそ鼻につくほどなんだけれどそれを人は妖艶と呼ぶ。入れ代わり立ち代わり畳みかけるボーカルと切り替わるリズム、その裏でいつまでも警報のように鳴り続けるサイレン。絶対に只者ではないとこの一曲だけで十分すぎるほどに知らしめることができてしまう。俺らの一挙手一投足に注視しろ、さもなければあっと言う間に仕留めるぞって脅されてるような感じ。総じて強い。これぞ帝国の王である。

 

 

8.Coffee&Cream 

 まさにタイトル通りの曲。まろやかなまどろみと心地よい気だるさがゆっくりとまざりあって沈殿している穏やかな曲。ピアノの低音とオートチューンじみた声の織り成す少々のアンバランスさが逆に耳に心地よい。ピアノのやわらかい音と金管楽器のすこしの豪華さがまさに休日の空気を物語っている。誰にだってあると思う、少しだけ寝過ごして、もう日は高く蒲団の上にあたたかな光が差してるんだけどまだ置きたくなくて結局陽だまりの中でうとうとしちゃった経験。そういう曲(のはずなんだけど歌詞が少々不純である)。

 ところで声って楽器だなあとつくづく思った曲。特にS.I.Xの次だからそう思う。前曲で命の危機を感じるほどには全面に打ち出されてた攻撃性の牙なんてこの曲には存在しなくて、つきあってる人のことがかわいくて仕方がなくて休日をどこまでもふたりきりで過ごしたい、甘い願望だけが詰め込まれている。それを表現できているのはひとえに彼らの声やそれを使いこなす技術がとても多面的だからだと思うのだ。声の良さは天性だけれどそれを使いこなすには技術がいる。良い声を持ってるだけでは宝の持ち腐れになりかねないから、その声を、曲想や雰囲気や旋律や歌詞によって使い分ける必要がある。高低長短はもちろん、細さ、色味、音触など、声の調節方法は本当にたくさんある。その調節ねじを回して曲にぴったり合うところを探すのが歌唱だと思う。声というのはこの世で一番自由な最上級な楽器だ。この曲ではフェイクとメインボーカルラインが何度も交錯するからそれを強く実感する。とにかく声とハーモニーの重なりが本当にきれいで癒される。家でぼんやり蒲団にくるまれてる朝になんとなく聴くのはもちろん、明るい陽の光の下石畳を踏みながら聴くもよし、雨の日に洗濯物をたたみながら聴くもよし、いつ聴いても心を甘くしてくれる。NAVIGATORがどこまでも日常の中に溶け込まない曲ならば、この曲はどこまでも日常の中に順応してくれる。そうまるで液体のように自由自在に形を変えて、心に空いた隙間を埋めてくれる。本当に素敵な曲だと思う。なんでもない恋愛、抱きしめたくなるぐらい大好きな気持ちをただただ甘く歌ってる、こういう曲を待っていた。

 

 

9.Imitation Rain 

 

youtu.be

 

 もう何を言うまでもなく、この曲が旅路の始まりである。もちろんデビューと言うのはあくまでも越えなければならない一つの大きな山でしかない、というのは彼らの談だけれども、それでもこの曲があったからこそ彼らは「音楽をとことん突き詰める」というその意思をいっそう固くしたのではないだろうか。X JAPANYOSHIKI御大が作詞作曲を手掛けたこの曲でデビューすれば、セカンド・シングル、またその後の多くの音楽活動における高いレベルが求められることは必然である。美しいピアノの旋律や歌詞にちりばめられたワードは絶対的にX JAPANを想起させる。そしてこれを見事に自分たち色に塗りかえ、美しい高音やそれを支える低音、卓越した表現力をあいさつ代わりに世間に見せつけたのが彼らだと思う。たぶん、いつまでも、この先何年もかけて、それこそ彼らが彼らたる理由を懸けて咀嚼し、飲みこみ、表現していく永遠の命題のような曲なのだろう。なんかもう何を言うのも野暮である。きっとこの曲によって彼らのこの後の方向性が確たるものとなった。その点においてこの曲はどこまでも彼らの歴史において燦然と輝くターニング・ポイントであり続けると思う。そういう意味で、この曲を超える曲はたぶんもう現れないような気がする。原点にして頂点、なんて言葉はオタクが言う言葉じゃないし原点も頂点も勝手に決めるなって話だしいつだって「いま」の推しが最もうつくしく最強であるというのがわたしのオタク・ポリシーなんだけれど、この曲は、この曲だけはその形容をお許しいただきたい。この曲の、澄み渡ったピアノの旋律を聴くたびにはっとする。声高に制圧を叫ぶわけでもなく、熱く決意を語るでもなく、ただ、静かな雨の中でなによりも燃えさかる炎を内包する彼らだ。  

SixTONESがImitation Rainを歌っている。それだけで良い。それ以上に重要な意味なんてきっとない。

 

 

10.Life Time 

 1STにはたくさんの音楽が詰まっている。ジャンルはもちろん、まとう雰囲気、用途、伝えたいこと、どれもばらばらだ。音楽って本当に定義が広くて、正解なんてものはないけれど本物と偽物がたしかにある不思議な代物だ。たとえるなら宇宙である。果てはないけれど大きさがある。だから、音楽を歌う人、あるいは作る人、その数だけ音楽と言う定義がある。政治的に使う人も、だれかを勇気づけるために使う人もいる。自分のためだけに歌う人もいる。世界観を表現する一助として位置付ける人もいる。正解はない。その人が使いたいように、歌いたいように、音楽と言うものは在るし、生まれつづける。どんな時にもどんな人にも必ず音楽は寄り添ってくれて、となりにいてくれる。音楽が死なないのはそういうことだ。誰か人が生きていくためには絶対に音楽が必要なんだ。だから音楽は滅ばない。

  さてこの1STというアルバムが示しているものとは何だろうか。それはたぶん、音楽の可能性、というものだと思う。音楽がかぎりなく自由であるということ。何にも縛られぬ純白の翼であるということ。どこまでも広がり続ける星空であるということ。誰かを奮い立たせることも、誰かをけしかけることも、誰かを興奮させることも、手をつないで引き寄せることも、あるいは心を慰めることもできる。頭を空っぽにしてもなお感じられ、甘やかさで包み込み、ただ前を見つめる静謐さをまとうことだってできる。

 そして人を救うことができる。誰もが立ち尽くしてしまう暗闇の中で、ぬくもりを分け合い、ちいさな光を焚いて、ともに歩く約束を交わすことができる。言葉はいらない。ただ、音楽があればいい。CDを入れて再生ボタンを押すだけでいい。そうするだけで、いつまでも、何度でも、音楽は人を救うことができる。ひとりではないと知ることができる。ただ見えなくなっているだけで、いつだって自分のとなりに在る存在がいるということを思い出すことができる。求めればいつでも。求めなくてもいつでも。人生が続く限り、音楽が寄り添ってくれる。そういう音楽をSixTONESは歌うことができる。誰よりも誠実に旋律を紡ぐことができる。彼らは人を救うために、光となって瞳を照らすために音を鳴らすことができる。それはきっと最高のアイドルだと思うのだ。彼らはこの歌をこうやって歌うことができる。もうそれだけで十分だ。信じる根拠はそれだけでいい。音楽は裏切らない。嘘をつかない。それさえあればなんにもいらない。

 

 

〈まとめ〉

 長々と書いてきたのですが、何が言いたいって本当に良いアルバムだったんです。こんなにも泥臭く、心の底から清々しく、音楽を愛し、音楽を楽しみ、音楽をいつくしみ、音楽に願うグループが実在していることがわたしは本当にうれしい。音楽の可能性を盲目的に信じている彼らが好きだ。音楽は裏切らないと、そう言い切るひとがセンターにいるこのグループが本当に好きだ。それを実感させられるアルバムであり、また、それに決してとどまらないアルバムである。今回書いたのは各盤共通の10曲だけなんだけれどもじつは収録曲はあと11曲ある。そのどれもが彼らの魂のきらめきであり、何よりもその生きざまを証明するものとなっている。

 SixTONESに出会えてよかったと思う。そして、これから出会う人たちがうらやましい。どうかこの切実なアルバムが、ずっと長く聴かれることを願う。6人による真摯な祈りがいつまでも鳴りやまないことを願う。本当に、心の底から良いアルバムなのだ。

 

 

www.sixtones.jp

*1:月刊ニュータイプ9月号より。

*2:このことに関しては「音楽と人」1月号に掲載されているGRAPEVINEへのインタビューがとても刺さるので是非ご一読をば。

*3:SixTONESNHKで初の全員MC番組 "価値観のズレ"を体当たり検証」(オリコンニュース)より。

*4:個人の見解です。

*5:中原中也 全詩集」(角川文庫•2006年発行)より。